学芸員資格の解説と新型コロナ対応【東京大学】

学芸員資格について勝手にゆる~く解説するブログ】

目次

・前書き、お断り

Ⅰ 学芸員課程のきほん

Ⅱ 学芸員科目の履修

Ⅲ 博物館実習

Ⅳ 授業がかぶった時は…

Ⅴ 現時点での情報早見表

 

※時間がない人は画面を下に飛ばしまくってⅤの「情報早見表」だけみてください。※2020年4月14日正午までの情報を元にしています。適宜更新するつもりですが、ご自身でも必ず最新の情報を確認してください。

☆現在の更新履歴

・2020年4月14日執筆

・2020年4月15日公開

・2020年4月18日加筆(『博物館空間表現実習』の締切が過ぎた旨追記、誤字の訂正)

※情報には細心の注意を払ってはおりますが、履修にあたっては所属学部もしくは科目ごとの開講学部(文学部、理学部、教育学部)の教務課に相談されることを強くおすすめいたします。

 

 

 進学コロナ騒動が収まらず、履修決めにも一苦労の毎日ですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。履修に関する情報が入ってこないで苦労している人も多いでしょうが、主に東京大学学芸員資格を考えている人向けに、現時点での情報をまとめてみましたので、適宜参考にしてください(弊学学生向けの情報が多いですが、それ以外の方にもお役に立てる部分があるようにしたつもりです)。

 

 

Ⅰ 学芸員課程のきほん

ⅰ 学芸員とは?

 学芸員は雑に言うと「博物館などで資料や展示を扱うおしごと」です。過不足ない説明は手元の新明解国語辞典に頼ることにすると、「展示資料の収集・整理保管・調査研究などに従事する、博物館・美術館や都道府県などの文化面担当の専門職員」だそうです。あと文化庁によると、

1博物館資料の収集・整理

2博物館資料の保管・保存

3博物館資料の展示・活用

4博物館資料の調査研究

5教育普及活動等,博物館資料と関連する事業

を行うおしごとだそうです[1]

 

 ちなみに博物館と法令で言われているのはいわゆる「博物館」の他に「美術館」「科学館」「郷土資料館」なども含みます[2]学芸員の資格はそれらで全て共通です。

 

ほえぇ~、なんかかっこいいですね。

 

ⅱ 学芸員資格

 って思ったそこの方、学芸員になるためには資格がいります。そしてそれはその気になれば大学でちゃんと取れます。確かに実習などはしっかりしなければいけないですが、資格関係みんなそんなものです。見ている限り、教職と医師看護師よりは楽だと思います。

 学芸員資格を大学で得るためには、法令に定められた19単位を履修しつつ、少なくとも学部を卒業する必要があります。就職に当たっては修士以上の学位を持っていなければ厳しいことが多いですが…(文化後進国であるところの本邦では現在、学芸員のポストは非常に限られております)。

 その単位は、博物館法施行規則により、以下のように区分されています(アルファベットはこのブログでの便宜上まさなおが付しました)[3]

A 生涯学習概論                               2単位

B 博物館概論                                   2単位

C 博物館経営                                   2単位

D 博物館資料論                              2単位

E 博物館資料保存論                       2単位

F 博物館展示論                               2単位

G 博物館教育論                              2単位

H 博物館情報・メディア論      2単位

I 博物館実習                                    3単位(学内2単位+館園実習1単位:Ⅲで後述)

 

 要するに、講義1コマを2単位とするならば、「講義9コマ+1単位の実習」の履修で卒業時に資格が一つ増えるわけです。非常にオトクな資格です。少なくとも60単位以上いる教員免許よりは(小声)。

 東京大学では、主に学部3年生以上から履修できます(A生涯学習論のみ2年生時に「持ち出し」として履修可能)。

そして学芸員資格は教員免許と違って更新も不要です(教員免許をディスりすぎてそろそろ叱られそう)。つまり例えば、30歳のときそれまで勤めてきたブラック企業に突然嫌気が差したとしても、大学時代に資格さえ取っておけば応募することは可能です。もちろんそんなタイミング良くいかないのが人生ってもんですが、少なくとも人生の可能性と選択肢が一つ増えるのは確かです。持っていて邪魔にはなりません。ブラック企業にお勤めになる予定がある方は、特に履修を検討してみてください。

 

ⅲ 大学以外で学芸員資格を得る方法(※参考 時間のない人は読み飛ばしてどうぞ)

 なお、学芸員資格を大学で単位を取得することなく得る方法もあります。「学芸員補」として一定期間勤めて審査認定を受ける、試験認定などです。

 前者に関して、学芸員補というのは雑~に言うと学芸員見習いと思ってください。一定期間(持っている学位や単位により異なる)現場経験を積むと、資格を認定してもらえます(=審査認定)[4]。が、学芸員補のクチが少ないためこのブログでは割愛します。

 後者に関しては、そこそこ現実的な選択肢だと思います。「学部卒、2年以上の教職経験、4年以上の学芸員補経験」などのうち、いずれかに該当するのが受験資格です[5]。Ⅰ-ⅱで説明した単位のうちA~Hと科目と、「文化史・美術史・考古学・民俗学・自然科学史・物理・化学・生物学・地学」のうちから2科目を受験し、これに合格することでも資格は得られます[6]。2回以上に分けて受験したり、一部分だけを受験することも可能です。

 試験の過去問については文化庁のHPで見られます。以下のリンクをご参照ください。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bijutsukan_hakubutsukan/shinko/about/shikaku/1415011.html

 

 

 

Ⅱ 学芸員科目の履修

では、学芸員資格の講義を早速履修してみましょう! (履修したいけど他の講義と被っちゃったなどの場合は、とりあえずⅣを参照してください)

ⅰ 実習以外の科目について

 Ⅰ-ⅱで分類した9科目のうち、A~Hはふつ~の講義と同じように履修できます。履修登録機関に登録ボタンをポチっと押すだけです。これらの科目に関しては、本学では全て他学部履修が可能となっており、面倒な申請手続きも一切不要です(他部局の講義を取る際に所属学部に申請が必要な学部等はありますが、必修と被るなどではない限り「学芸員資格が欲しい」と言って拒否られることはまずないでしょう。万が一あればそいつはハラスメント教員です。殴っておくか通報しといてください[7])。

 A~Hについて、2020年度の講義をそれぞれ簡単にまとめておきます[8]。講義の内容に関する正式なお問い合わせは、それぞれの開講学部の教務課まで。

 

A 生涯学習概論

 開講学部:教育

 生涯学習とはなにか的な講義です(それはそう)。

本年度はS2ターム木曜45限通しの「社会教育論Ⅱ」とA1ターム月曜34限の「社会教育論Ⅰ」が開講されています。法定の科目名と東大が定める科目名が違うのが紛らわしいですが、どちらかを選んで単位を取得してください。2つとも履修したとしても、学芸員資格として充当されるのは片方だけです。

なおA1タームの「社会教育論Ⅰ」は、前期課程の学生が後期課程の講義を先取り履修できる「持ち出し専門科目」に指定されています。

 

B 博物館概論

 開講学部:教育

 博物館とはなにかみたいな講義で、一番基礎的な部分でもあります。できれば学芸員課程を取り始めた最初の年に履修した方がいいとは思いますが、後回しにしたら即アウトってほどではありません。

 本年度はSセメスター火曜5限の開講です。当ブログ公開時点では既に始まってしまっていますが、新型コロナで混乱しているさなかですので、先生に事情を説明すれば途中からでも入れてくれる気はします。北垣先生、ものすごく話しやすくていい先生ですので(優くれたらもっといい先生だった)。

 

C 博物館経営論

 開講学部:文

 博物館施設の経営的な視点の講義で、こちらは文学部の文化資源学が担当することになります(本学、学部ごとの独立が強いから、たまに紛らわしいですね)。

 本年度はSセメスター月曜5限の開講となります。文学部のスタートが遅れているので、初回講義は4月27日でしょう。担当の小林先生は文化資源学のすごい先生です。あ、昨年本郷キャンパス総合図書館前の「畳」を見た人いるでしょうか? あの「図書館前畳週間」をゼミでやっていた先生です。

 

D 博物館資料論

 開講学部:文

 博物館の資料の扱い方や収集の仕方をやる講義です。これは実習前にやったほうがいい気もしますが、よくわからないです(おい)。

 開講学部は文学部ですが、内容によって2つの講義に分かれています。1つ目は美学芸術学研究室が担当する「博物館資料論(美術工芸品)」で、本年度はSセメスター木曜2限の開講です。担当の津田先生は仏教美術がご専門だった気がします(ちゃんと調べろ)。もう一つは「博物館資料論(歴史資料)」で、Aセメスター火曜5限に日本史学研究室の担当で開講します。宮瀧先生は埼玉県で長らく学芸員をされていた先生です。

 なお後者の「(歴史資料)」ですが、日本史学研究室所属のひとは何故か「日本史学特殊講義」を履修したものとして単位認定されるようです。ひとつぶで2度おいしいので是非どうぞ。

 

E 博物館資料論保存論

 開講学部:理

 資料の保存技術を担当する講義で、そのためか本学では唯一理学部が担当する講義になります。まさなおはまだ履修していないので特に語ることはないです(おい)が、本年度はSセメスター火曜6限の開講です。初回講義は21日となります。6限という遅い時間ですが頑張りましょう。これでもまだまだ教職より……(以下略)。

 

F 博物館展示論

 開講学部:文

展示手法について解説している講義になりますが、今年で先生が変わっているためどのような講義になるのかいまいち把握しきれていません。Aセメスター金曜4限の開講となります。

履修にあたっては、6月7日までの東京国立博物館平成館で開かれている(はずの)「きもの KIMONO」展の見学が推奨されています。が、お察しの通り東京国立博物館自体が閉まっているという事態と相成っております。どうすんだこれ…?

 

G 博物館教育論

 開講学部:教育

 博物館で行われている教育内容に関する講義になり、それら教育法の歴史なども含みます。棚橋源太郎とか伊藤寿朗とか、日本史学専修の人間でも普通知らないような人物名がポンポン出てくる講義がこちらになります(知らないのは君が無知だからというツッコミは受け付けておりません)。

 本学では教育学部総合教育科学科教育社会科学専修(長い)が担当する、Aセメスター月曜6限の科目です。

 

H 博物館情報・メディア論

 開講学部:教育

 2012年に博物館法施行規則が改定されたときに新設された枠で、読んで字のごとくの内容になります。まさなおはまが履修しておりません。

 東大で開講されるのはA2ターム木曜45限ぶっ通しの「図書館・博物館情報メディア論」となります。司書課程との抱き合わせの結果名前が微妙に変わっております。

 そういえば、講義の話とは関係ないですが、この科目に関する学芸員資格認定試験の問題に、Twitterやっている人なら誰でもできそうな問題が1問だけあったので載せておきます。

ソーシャルメディアには「フロー型」と「ストック型」がある。以下のうち, 「フロー型」にあたるものは(   )である。(平成30年度)

①Twitter ②YouTube   ③Instagram

 

Ⅲ 学芸員実習について

 ここまで読んでくれたかたありがとう。でもここからが大事です(ここで半分以上の人がブログを閉じる)。

 

……ブログを閉じなかった方に話を続けますと、大学で資格を得るにはⅠ-ⅱの「I」で挙げた「実習」も必要となります。これの手続きがなかなか厄介です。

 

ⅰ 「博物館実習」の仕組み

 施行規則で博物館実習に含まれる科目は「学内」と「館園」へとさらに細分化されます。雑に言うと「学内」はふつーの講義、「館園」が現場実習です。前者が2単位、後者が1単位で、併せて3単位となっております。この3単位を取り切らないと、Iの博物館実習を取得したことにはなりません。

 本学で2020年度に開講される科目は、以下の10個です(アルファベットは便宜上付しました)。

P 博物館学実習A                  学内+館園

Q 博物館学実習B                  学内+館園

R 博物館空間表現実習          学内

S 博物館科学表現実習          学内

T 博物館学実習C                     館園

U 学外館園実習                         館園

V 博物館学特別研究                 館園

W 社会教育学演習Ⅰ             学内

X 社会教育学演習Ⅱ              学内

Y 社会教育学演習Ⅲ              学内

このうち、PQは学内と館園のおまとめパック、RSWXYが学内のみ、TUVが館園のみのバラ売り販売となっております。RとSは片方のみしか履修ができません。

 

ⅱ 単位の取り方

 さて、紛らわしいのでよく聞いてくださいね!

 「博物館実習」3単位を取得するためには「学内2単位」と「館園1単位」をどちらも履修しなければいけないのは先述の通りです。この2系統を埋めるためには、以下の3パターンが考えられます。

a 「学内」「館園」がセットになった宿泊実習を履修する。

b 本郷キャンパスで開講される「学内」と「館園」を別々に履修する。

c 本郷キャンパスで開講される「学内」を履修し、自分で実習する博物館を見つけて申し込む

以下、それぞれの履修方法について解説します。

 

a 「学内」「館園」がセットになった講義を履修する。

 本学では文学部の施設として北海道常呂町に「北海文化常呂実習施設[9]」というものを持っており、ここで10日ほど泊まり込んで考古学を学ぶことで3単位を一気に取得することができます。

 これに該当する科目は、PQの博物館実習Aか博物館実習Bです。

 このうち、博物館実習Bは文学部考古学専修課程の方のみが履修できます。考古学の方は学部ガイダンスなどで説明があった通りだと思いますので、そちらを参照ください。

 それ以外の方が申し込めるのが、博物館実習Aです。こちら、本年度は8月2日から10日(解散翌日)まで泊まり込みになります[10]。が、新型コロナで実施できないかもしれません。その判断や代替手段は7月上旬までに判断されます。

 博物館実習Aを履修希望の方は、常呂町での実習が行われるか否かに関係なく、5月1日までにシラバスの指示に従ってエントリーシートを書いてください。それによって履修上限になった場合の選考が行われます。

 文学部によると、常呂町で実施できない場合はオンラインなど代替を用意するとのことですが、文部科学省の『博物館実習ガイドライン』によると「実習」という現場経験を代替することは「厳に慎むこと」とされているのですよね…。その辺の兼ね合い、文学部はどうするつもりなのかはよく分からないです。

 

b 本郷キャンパスで開講される「学内」と「館園」を別々に履修する

※この方法に関する期限は過ぎました。

 R「博物館空間表現実習」を履修したうえで、T「博物館実習C」に申し込む方法です[11]

 この方法を選ぶ方は、4月17日までにシラバスの指示に従って博物館空間表現実習担当の先生にメールを送ってください(おそらく、実習を実施する博物館が休館しているので、それに関する指示が来ます)。また、T「博物館実習C」は10月7日に抽選が行われます(履修希望者は要出席)。抽選なので、卒業を控えたかたにはおすすめできません。

 

c 本郷キャンパスで開講される「学内」を履修し、自分で実習する博物館を見つけて申し込む

 「学内」は普通の講義のように履修した上で、自分で実習館を探し出して申し込むやり方です。aやbの方が楽と言えば楽ですが、履修上限に振り回されるのが嫌ならこの方法がいいでしょう。

 この方法を選ぶ方は、まずは文学部の「学外館園実習」か教育学部の「博物館学特別研究」のどちらを履修登録するか決めた上で(本気でどちらでもいいですが、文学部以外の方はサポートが充実している教育学部の方がいいと思います)、シラバスに記載されている先生のアドレスに履修するむねメールを送ってください。Sセメスターの履修登録機関が期限ですが、早ければ早いほどいいです。

次に、先生の指示に従って、自分が実習したい博物館などを探し当ててください。HPに載っている場合もありますが、載っていないにしても電話で頼めば受け入れてくれることもあるそうです(また「博物館学特別研究」のITC-LMSには、教育学部を通して紹介してもらえる館のリストがあります。そちらは流石にブログにリンクを貼る訳にはいかないのが悲しいですが…)。新型コロナで空いている館が少ない中、非常に大変な作業になるとは思いますが…。

 「博物館学特別研究」のITC-LMS上に今後の見通しが載っていますので、cを選ぶ方はそちらも参考にしてください。

 また併せて、博物館空間表現実習、博物館科学表現実習、社会教育学演習Ⅰ~Ⅲの中からどれかを選んで履修することも忘れないでください。

 

 

Ⅳ 授業が被ったときは…

 ⅰ 試験の免除

 これまで「学生のうちに学芸員資格を取る」前提で話を進めてきましたが、学芸員資格を取るには試験という方法もあり(Ⅰ-ⅲ参照)、学生のうちに一部の科目を取っていると、その試験は免除してもらうことができます[12]

 よって、例えば「博物館教育論だけ必修のゼミと被って履修できない」などの場合は、その科目だけ取り残して卒業するのも手です。学芸員は社会人が取るのも不可能とは言えない資格なので、通信教育課程も存在します。

 

ⅱ 来年に期待

 実は学芸員資格に必要な講義、結構毎年時間割が変わっています。今年は被っても、来年に期待するのもなしではない……かもしれません。

 

Ⅴ 現時点での情報早見表

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※履修可否:他学部履修の可否

※締切特記:ITC-LMSでの登録以外の締切が存在するもの

 

 

以上、現時点での情報をまとめてきましたが、まさなお自身も学芸員資格の必要単位を取り切っているわけではなく、困惑の真っ只中にいます。というわけで何か情報をお持ちのかた、教えていただければ幸いです。頑張って取り切りましょう…。

 

 

 

[1] https://www.bunka.go.jp/seisaku/bijutsukan_hakubutsukan/shinko/about/gakugeiin/

[2] 厳密に言えば「登録博物館」「博物館相当施設」「博物館類似施設」に分かれますが、学芸員資格を解説しようという本ブログの趣旨から逸脱するので、ここでは触れません。

[3] 「博物館法施行規則(昭和30年文部省令第24号) 第一条」

[4] 同規則第九条

[5] 同規則第五条

[6] 同規則第六条

[7] 当ブログは暴力行為を推奨してはおりません。

[8] 教育学部東京大学教育学部便覧』教育学部、2020年、P228-P229

[9] http://www.l.u-tokyo.ac.jp/tokoro/

[10] なお、泊まり込みの前に行われるS2タームの集中講義「北海道の考古学」を合わせて履修することが推奨されています。

[11] 制度上はSの「博物館科学表現実習」とTとの組み合わせも可能ですが、前者が理系で後者が文系の考古学なので、わざわざそうする意味はないと思います。

[12] 前掲規則第七条